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3人の子どもがいるのに不倫相手と心中…身勝手すぎる作家・有島武郎の炎上騒動

炎上とスキャンダルの歴史1


不倫騒動は、いつの時代も炎上のタネ。とりわけ子どもを顧みない行動となれば、世間のバッシングもすさまじくなる。3人の子どもを持ちながら既婚女性と恋に落ち、その関係を暴かれた人気作家・有島武郎(ありしま・たけお)は、炎上を恐れ、「心中」を選択してしまった。


 

美人記者と不倫、「姦通罪で訴える」と脅迫され…

 

夏季に心中したことで、遺体は顔の判別もつかぬほど腐乱していた

 

 「惜しみなく愛は奪う」――これは有島武郎が大正6年(1917年)に発表した恋愛論のタイトルです。「愛の表現は惜しみなく与えるだろう。 しかし、愛の本体は惜しみなく奪うものだ」と語った有島は、その約5年後の大正12年(1923年)6月9日、軽井沢の別荘において長年の愛人で、美人記者として有名だった波多野秋子と心中自殺を遂げました。有島の思想と行動をまとめると、「愛しているからこそ、相手の全てが欲しくなる」。これに尽きるでしょうね。

 

 有島には当時3人の息子がいましたが、大正5年(1916年)に妻が病死してから、彼は世間的には独身のままでした。波多野秋子が離婚さえすれば、問題はすべて解決、再婚も可能だと思うかもしれません。しかし、当時施行されていた民法では、結婚した途端、女性は法律上の「無能力者」として扱われることになります。女性から離婚を切り出しても、夫に無視されたら、それで終わり。女性は、夫から捨てられる形以外の離婚が難しいという現状がありました。

 

 最悪なことに、秋子の夫の春房は「女にだらしない男」として有名で、多くの愛人を抱えながら、秋子にも執着しつづけるという実にめんどくさい男だったのです。春房は、秋子に男がおり、それが当時の人気作家・有島武郎だと知ると、金をせびり、「お前たちを姦通罪で訴える」と脅してきました。

 

 有島武郎は、学習院出身の生粋のエリートで、嘉仁皇太子(後の大正天皇)の御学友でもあった誇り高い男性です。仮に姦通罪で訴えられても、裁判によって実罰を受ける可能性は低いのですが、大炎上することは免れず、社会的地位と名誉のすべてを失ってしまうでしょう。一番厄介なのは既婚女性と恋愛関係となり、彼女の夫から姦通罪で訴えられた場合、その女性が離婚しても、彼女とは絶対に結婚することはできないというペナルティがあったことでした。

 

 

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堀江宏樹ほりえひろき

作家・歴史エッセイスト。日本文藝家協会正会員。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。 日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)、近著に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『本当は怖い江戸徳川史』(三笠書房)、『こじらせ文学史』(ABCアーク)、原案・監修のマンガに『ラ・マキユーズ ~ヴェルサイユの化粧師~』 (KADOKAWA)など。

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